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〔随筆〕 「松を食べる―松の蜂蜜」 投稿:甘利敬正 松は私の好きな木である。松は昔から日本の至る所で生育している。名所旧跡には必ずといって良いほど名松が見られる。各地の海岸には人々が苦労して防潮林を造成し、三保の松原や虹の松原として環境に役立っている。 しかし過去100年の間にアメリカ生まれのセンチュウ(いわゆるマツクイムシ)が増殖し、多くの松がその被害を受けた。松は本来樹木の中では競争力が低く、瘠地に生きることを余儀なくされた種類で、人間とのコラボレイションでようやく人の目に付くところに緑の存在感を発揮しているのだが、それが外国産の害虫にやられてまことに、かわいそうな有様になった。 さて、そんなこともあって7年前にエッセイ集「松物語」を纏め、その中に「松を食べる」という一篇を載せた。松が害虫に食われて弱っているのに、「松を食べる」とは、と言われそうだが、実は「松の実」は人にとって脂肪と蛋白質に富んだ栄養万点の食べ物なのだ。そのほかにかっては松の内皮や松葉が凶荒食物や健康食品に利用されていた。そんなことを材料に話をまとめたのだった。 ところがそれ以外に、私の知らなかった松の食品があったのである。それが松の蜂蜜であった。先日トルコを旅行されたSさんがお土産に持ってきてくれた。私が松に詳しいことを知っていて、イスタンブ−ルのスーパーで見つけてくれたものだった。頂戴した瞬間私はびっくりした。松の花には蜜がない筈なのになぜ松の蜂蜜だろうか思ったからである。何せ松は風媒花といって花粉を風で運んで貰って雄花に受粉する仕組みになっていて、色彩豊かなレンゲやウメやモモのようにハチが仲介する虫媒花ではない。だからハチをおびき寄せる蜜は出さない。なのになぜミツバチが松の蜜を集めるのか。調べると面白いことがわかった。 地中海のこの辺にはアレッポ松や傘松など5種類の地中海松がある。この松につくアリマキは松の樹液を食べ、その排泄物に糖を出す。ミツバチはこのアリマキの尻を狙うのである。ちょうど蟻がアブラムシの尻を狙うように。かくして松の蜂蜜が生産されるのである。 頂いた蜜は濃いめで、特に松特有の味はないが、日本の花の蜜よりは複雑な風味を持ったものだった。容器はプラスチック、500グラム入りの台形風で、出口は蜜の切れが良いようなつくりになっている。おかげでおいしい蜜はいただけるし、私の松に関する知識を増やしてくれるしで、トルコから買ってきてくれたSさんには感謝感謝であった。 写真は容器の外観 商品名;HONEY−HOUSE (左は日本の容器) |